「EVO」とは?
※EVOがどんなものかや歴史を知ってる格ゲー勢は、この章はスルーでOK
現地8/2~4、アメリカ ネバダ州ラスベガスのマンダレイベイで開催された「The Evolution Championship Series 2019」、通称 “EVO” が開催されました。
EVOは間違いなく世界最大の格闘ゲームの祭典で、今年のエントリー総数は14,000人以上、渡米した日本人プレイヤーは450人以上と言われています。
日本でもTwitchやOPENRECで主要種目が配信され、その大会の様子は多くの格ゲーファンが見守っていました……
と、前置きはここら辺にして。
EVOむっちゃ面白かった!
自分はSFVメインの観戦勢だけど、EVOは特に複数タイトルで世界一を決めると言っていいビッグイベント。最終日のBBTAG/SFV/鉄拳7/スマブラTOP8はすべて見ました。 鉄拳のアルスラーン・アッシュ(パキスタン)、凄かったですね。 DBFZのGO1とソニフォの関係、エモすぎましたね。
まあ、そこら辺はすでに多く語られていると思うので、自分はSFVメインで。
格ゲープレイヤーが良く「EVOの壇上」って言いますが、
https://twitter.com/EVO/status/1158062528133341185 https://twitter.com/MrWiz/status/1158123413170376704 https://twitter.com/MrWiz/status/1158186437545623552
日本でe-sports?、イースポーツ?言ってる人たちは、この会場の熱気の凄さが分かってるのかという。 そしてこのイベントは、EVOは1995年参加者40人から始まり今の規模になった歴史あるイベントでもあります。
まあ、歴史とか言い出すと日本の闘劇が出てくるし、規模で言うとLeague of Legends World Championship(2018年UV数9,960万人)、Fortnite World Cup(2019年賞金総額32億円)、などMOBAやFPSと言った他ジャンルと比較すれば遠く及ばない。
でも、EVOは特別。 “EVOの壇上” は賞金に代えられない格ゲーマーの名誉であり宿願。
これは格ゲーがFGC(Fighting Game Comunity)によって根強く発展してきた、プレイヤーたちが長年に渡って育んできた世界だということが大きいと思います。 格ゲーは日本発祥の文化ながら世界で愛され、日本人、アメリカ人、欧州、南米の格ゲープレイヤーが互いの繁栄に協力を惜しまなかったのです。
Street Fighterシリーズでその発展をたどると、 EVO2014 Ultra Street Fighter 4でフランスのLuffy選手が優勝し、Red Bull Kumite 2015開催以降Problem X、Phenomなど強豪選手が台頭してきた欧州。
Capcom Cup(CC) 2017ではドミニカ共和国のMena RD選手が優勝し、今年のCPT(Capcom Pro Tour)ではドミニカ共和国開催の「Game Over」がPremireイベントに指定されるなど南米(Latin America)のSFVシーンが一気に盛り上がりを見せる。
もちろんEVO2015のももち選手、EVO2017のときど選手、CC2018のガチくん選手といった日本人選手の活躍もあり、EVO2016優勝者は今年はSAMURAI SHOWDOWN(サムスピ新作)で格ゲーシーンに復帰した韓国のINFILTRATION選手。
と、Street Fighterシリーズの大会の話ばかりしたけど、格ゲーマーって試合ではバッチバチにやり合うのに仲がいい。 互いの国に行けばホストし合うし、試合前日まで平気でホテルの一室などでいわゆる “野試合” をする。 個人競技で敵同士なのに、世界レベルで仲がいい。
それがFGCであり、プレイヤーだけでなく高度なプレイやコミュニティの姿に魅入られた観客たちも含めて今のEVOの規模にまでなったと言えるに違いありません。
ちなみにEVOの賞金は、プレイヤー参加費から10$を賞金総額にして1位(60%)2位(20%)3位(10%)……と割り当てられ、今年の最大参加人数を占めるスマブラでは賞金総額が$35,340になります。
※ソース:「ESPORTS EARNINGS」
でも、賞金じゃないんですよ。 EVOで勝つことは名誉であり、参加することが喜びなんです。
プレイもせず現地にも行っていない観戦勢のセリフか?と言われそうですが、配信やSNSで見られるプレイヤーの姿や会場のシーンを見れば断言できます。
ボンちゃんがEVOに残した忘れ物
2014年EVOでLuffyが優勝して欧州のFGCシーンが……と上記しましたが、この時にGFで敗れたのが、今回のEVO2019で優勝したボンちゃん。
今年の優勝で5年越しの悲願を達成したとも言えますが、 EVO2017ではベスト8、“EVOの壇上”を賭けた戦いがありました。 Loosers TOP8、MOV選手との一戦。
これに敗れたボンちゃん、どちらかと言えば勝敗にかかわらず試合後は笑顔を見せることが多い彼が、ショックを隠さずに両手で顔を覆っていました。
ウル4で頂点に届かず、SFVで壇上に上がれない。 特にボンちゃんは「SFVでは壇上にすら上がれてない」というのをTOPANGAの勝ちたがりTVなどの配信でもよく発言していました。
だからこそ、だからこその歓喜。 大会記録に残るレベルで2009年スト4から10年以上、EVO2014からも5年。
さらに2016年は19回も海外遠征に出ながらCPTランキングが届かずCCに出られなかった悔しさもあったはずです。
(2016年CPT感想を振り返るボンちゃん)
彼がこの間も腐らず、先を見てキャラクター選択や練習への取り組み、試合への立ち向かい方を考え続けて努力を絶やさなかった結果がついに報われた、ということでしょう。
さらにオマケが2つ。
1つはCEOのボンちゃんの入場シーンを「2点」評した石井プロが、今回のGrand Final試合前のシーンを取り上げたツイート。
ボンちゃんのCEOでの入場を「2点」と評したことがありましたがこの「乾杯」は eスポーツ史に残る「2兆点」の入場シーンだったと思います。鬼エモい。
https://t.co/0MUm4cwUvN— 石井プロ (@ISIII_PRO) August 6, 2019
広告とか宣伝とか口うるさい人がいるかもしれないけど、この舞台でこの演出を発想して実現したこと自体が素晴らしい。 そして格ゲーファンはうるさいこと言わず、エモいものはエモいと楽しむものです。
もう一つは、夫人のアンナさんが感激で多くのリツイートや自身のツイートを重ねる中にあった、短いツイート。
ちょうど1年前にプロポーズ……言い換えれば結婚記念日にEVO優勝を決めた、ということ。
何だろう……エモいポイントが多過ぎるというか、もうこれ主人公ルートだろ、というか。
直近のCPTプレミア大会であるCEO、VS FIGHTINGで優勝し本命視こそされていましたが、ついに成し遂げるとか。
ボンちゃんのEVO2019優勝を称える声は多く挙がりましたが、自分が調べただけでもこれだけのエモいバックストーリーがあったのです。
まだある “EVOの壇上” を巡るストーリー
勝者がいるということは、その陰に敗者がいる。
今回のボンちゃんに決勝で敗れたBig Bird選手も、TOP8を決めた時は盟友のAngry Bird選手が速攻で抱き着くほどの感激。
これについてAngry Bird選手は、
「私たちの仲間からEVOのTOP8に入るのは子供の頃からの夢でした」と。
そんなBig Bird選手も、二度とない機会かもしれないEVOの優勝を逃した表情は悔しそうでした。
彼の真摯な姿勢ゆえに平成は保っていますが、「あの時こうすれば……」という後悔の念が脳裏を何度も過っていたかもしれません。
この敗者の表情が美しい。(そもそもイケメン過ぎますが)
……と、TOP8のドラマはこれだけじゃない。
それはEVO day2のSFVの最後の試合。 Loosers TOP8最後の椅子、勝てば壇上、負ければ終了。
その試合がこの2人によって行われました。
Trash Box選手 vs キチパーム選手。
共に売り出し中の選手で、バーディー使いのTrash Box選手は熱帯世界一(ネットワーク対戦のランクマッチでLP1位)として有名な若手。CPTでは、2018年の JAPAN Premier(TGS開催プレミア)や2019年のTHE MIXUP(フランス開催プレミア)で7位入賞を果たしています。
一方、キチパーム選手はザンギエフ使いとして名が知られており、CPTでは2017年TWFIGHTER Major(台湾開催プレミア)で5位、2018年Abuget Cup(インドネシア開催ランキング)で3位の記録を残しています。
二人にとって、いや格ゲーマーを志した者にとって “EVOの壇上” は垂涎の誉れであり、それがあと一戦で手に入るという戦い。
二人の間には試合前から壮絶な火花が……
スマホで対戦メモを確認してるっぽいキチパーム選手をわざとらしく覗き見るTrash Box選手……仲良しかっ!
でもその後すぐに対戦開始が近くなると、両者とも真剣な眼差しに。
プレイヤー間では、ザンギエフ(キチパーム選手)VS バーディー(Trash Box選手)では、圧倒的にバーディー有利と言われています。 一方、キチパーム選手はBig Bird選手に敗れるも、ザンギエフ不利と目されたDidimokof選手のダルシムに勝利してこの舞台にたどり着きました。
2セット先取(通称“2先”)のこの戦いの行方はいかに。
1セット目は接戦の末、キチパーム選手の勝利。
2セット1ラウンド目はTraxh Box選手。
2セット2ラウンド目はキチパーム選手。
2セットFinalラウンドは、
もはや後がないTrash Box選手が圧倒的有利に。
しかし。
回して
さらに回して
飛びをダブルラリアットで迎撃し、
さらに回して
スタン!
ほぼMAXだったバーディーの体力ゲージは一気に溶けて無くなり、
キチパーム選手のザンギエフが勝利! ザンギエフだからこそ成しえてしまった驚異の捲りに会場は大興奮。そして、
全身で勝利の喜びを表すキチパーム選手。 (高速でザンギエフのVトリガーポーズを決めてるところ)
一方、30秒近くうなだれて微動だにしないTrash Box選手。
劇的な戦いが生み出したその明暗は、あまりに残酷で、美しく。
試合後は握手を交わすのが通例ですが、ショックで動けないTrash Box選手を気遣い、あえてそれを求めずキチパーム選手はその場を去りました。
格ゲープレイヤーの世界には“煽り”の文化があります。 それは、昨今のSNSで見られるものとは違う正面切っての煽り合い。
殴るとは殴られるということ。 互いに覚悟と了解があっての挑発、それは実際に戦うことで決着するものであり、陰湿なものではない。
ときに煽りはプレイヤー間のWitに使われたり、ガチと演出の間のグレーゾーンにも使われたりします。 良く知られているのが、板橋ザンギエフ選手とネモ選手の試合やSNSを通じたやり取りなど。
Trash Box選手とキチパーム選手の間にも、試合前にはそんなシーンが見受けられました。 しかし、戦いはガチのガチ。
“EVOの壇上” は格ゲープレイヤーにとってのステイタスであるだけでなく、その結果はその後の人生さえ左右するものです。
そんな戦いを、笑顔で始めて真顔で殴り合い、勝者が雄叫びを挙げ敗者が真っ白に燃え尽きて終わる。
これがあまりにsportsでもe-sportsでもない「格ゲー」の魅力に満ちあふれていて、胸が熱くなり自分は何度も見返しました。
TOP8を成し遂げたキチパーム選手の言葉。
一つ格ゲーマーとしての夢が叶いました
欲張って優勝の夢も叶えたいと思います— AZ Laplace lキチパ kichipa (@kichipa_) August 4, 2019
一方、あと一歩にたどり着けなかったTrash Box選手も。
今は目の前の夢と試合を掴めなかったことに燃え尽きてしまい、次頑張ろうとかいい経験、試合になったとかも思えませんが、いつかボンさんのようにまた燃えあがれるように英気を養おうと思います。
皆さんの応援がある限り、必ず再燃しますのでその時はまたよろしくお願いします!
さよならベガス✈️ pic.twitter.com/S3ZEt0Jac0
— トラボ trashbox@Mildom (@trassssshbox) August 5, 2019
そして心打たれた人も。
キチパさんもトラボくんもほんとすげーよ。泣いたよ。だから格ゲーはやめられないんだ。#EVO2019
— 歌広場 淳 (@junjunmjgirly) August 4, 2019
この試合はCPTのYoutubeチャンネル「Capcom Fighters」が選ぶTOP 5 MOMENTSでも第2位、決勝の次にランクインしました。
是非、映像でも見てみてください。
本当にこの試合をEVOという舞台で刻んでくれた二人には、感謝しかありません。 エモかった。最高に震えるほどエモかった。
EVO終了時点のCPTグローバルポイントランキング
そんなことをしても一銭の得にもならないのですが、どうしてもやりたくなってCPT公式サイトを参照して自前のEXCELにこれまでのポイント獲得選手全308人分のデータを入力してポイント推移を表で見られるようにしました。
参照:CPT公式サイト順位表
まず、以下の表がEVO終了後TOP10のポイント推移です。
EVO2位(500pt)のBig Bird選手、3位(300pt)のInfexious選手がランクインし、Oil King選手とDaigo選手がその分後退しました。
その他には、やはりキチパーム選手が0ptから130ptにジャンプアップして56位など。
そして、Capcom Cup出場のボーダーラインとなる26位(前年CC覇者、地域予選優勝、最終予選優勝などはとりあえず考慮外)前後として21~30位ををピックアップすると
こんな感じに。 26位~29位の間の差が大きいのが目立つ感じでしょうか。
最終的なボーダーラインについては、かなりざっくりですが試しに予想をしてみました。
2018年ポイント総量が67512ptに対して26位が861pt。比率で言うと約1.275%です。 この比率を2019年に当てはめると、ポイント総量70270ptに対して約896ptになります。 ※removedとなったEsports Festival Hong Kong 2019分は除外済み
そしてEVO時点のポイントで計算すると約55.216%が消化済みです。 この比率を上記の896ptに掛けると、494ptです。
つまり前年と同じ傾向なら、今年のEVO終了時の26位は494ptくらいのはず。 しかし、実際の26位はハイタニ選手の440ptでその下もかなりポイントが落ちます。
これが、今年の顕著な傾向である「上位者のポイント占有→ボーダーラインの低下」が数字として表れているわけです。
すでに9位855ptのBig Bird選手まではほぼCC出場確定と言える状況なので、俗に「ガーディアン」と呼ばれる彼らが今後の大会参加を控える可能性もあります。
それによりポイント下位の選手たちにとっては、低いボーダーラインも相まって後半戦でのチャンスが広がっているとも言えるでしょう。
ちなみに拙いExcelですが、興味のある方は以下からDLして中身を覗いてみてください。
(上のプレビュー画像をクリックするとDLできます)
いかにも文系が作った素人の力業ですが、Excelが何となく分かる人は中を覗けば分かると思います。 マクロとかVBとかいうのはよく分からなくてね、スマンw
終わりに……“観戦勢”って?
これはEVOに限ったことではなく蛇足ですが、読んでもらえると嬉しかったり。
自分はプレイヤーではありません。 ときおりSFVを試してはいますが、ろくに技も出せずルーキーとブロンズを行ったり来たりするレベルで諦めています。 人には向き不向き、出来ること出来ないことがある。そう割り切っています。
そして、格ゲー界隈でよく聞かれる “エアプ” “動画勢” という言葉には残念な思いが常に過ります。
プレイヤー同士が育んできたFGCですし、プレイヤーファーストなのはもちろんです。 見てるだけの人間が苦労も知らず勝った負けたに文句を付けるのは浅はかで無責任、という気持ちは当然理解できます。
ただ、e-sports(是非は置いておいて)と呼ばれる流れの中で格闘ゲームも注目され、大会やプロ選手の増加、プレイ環境の広がりが見られています。
その流れの中には「格ゲーを見て楽しむ」人たちの増加もあり、配信や大会の興行としての成立が視野に入ってきています。
「興行」に対して、それ自体を望まないプレイヤーもいるでしょう。 そういったプレイヤーの方には、これ以上語れることはありません。
ただ、そういった興行に対して何かしらの形で対価を払い応援する層がいることを受け入れて欲しいし、互いに幸せになれるはずと信じています。
例示は話のすり替えになりやすいのであまり挙げないのですが、
プロサッカー選手でなければメッシのプレイを、プロ野球選手でなければイチローのプレイを語ってはいけないのでしょうか? サポーターやファンは存在してはいけないのでしょうか?
自分は格ゲープレイヤーたちのプレイが “芸事” として素晴らしく、その姿がエモいから追いかけています。 そういった自分のような人間もFGCの一員としていつか認められれば……そう願ってやみません。
ただ、そうでなくても自分はEVOやCPTが面白くて仕方ないのでこれからも追いかけ続けるでしょう。
だってそれは……やっぱり格ゲーは「エモい」から!
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