20年前、あなたは何をしていただろうか。
ジャイアント馬場が逝去し、宇多田ヒカルがデビューし、だんご3兄弟がヒットした頃。
ゲームセンターでは1999年5月12日にゲームセンターで稼働を始めた「STREET FIGHTER Ⅲ 3rd Strike」。
そのゲームの大会が、まさか2日間の5on5でプレクーペ71チーム、クーペ102チームも集まる規模で開催されるとは誰が予想できただろうか。
※パンフレットよりのべ150チームとしていたのを、誤りをご指摘いただき2017/1/17に修正しました。ご指摘ありがとうございます。
はじめに/クーペとは
……と、それらしい書き方をしたが、初めに白旗を上げておこう。
自分は初代ストリートファイターはもちろん、スト2でも昇竜拳すらまともに出せず格ゲーを早々に諦めた人間。
そこに「最近のスト5配信や動画を面白いと思うなら、『クーペ』も必ず見ておけ」と友人に言われ、今さら追いかけてみた次第だ。
これまでに歴史を培ってきたプレイヤーや追いかけてきた人たちに、知識も経験も叶うはずがない。
だが、それでもこうして筆を取ったのは、実際に配信を見て会場にも足を運んで感じた「熱」があまりに物凄かったから。「やべえ、ガー不だわコレ」って。
肝心の大会について紹介が遅れてしまった。
2019年1月5~6日、浅草橋ヒューリックホール。
STREET FIGHTER Ⅲ 3rd Strike
「2019 Pre Cooperation Cup」「The 17th Cooperation Cup」が開催された。
1日目はチーム内同キャラ推奨5on5の通称「プレクーペ」、
2日目がチーム内3キャラ以上使用5on5の本番、「クーペ」だ。
プレクーペ、3rdとの出会い
初日のプレクーペは自宅で配信を見た。
昨年からストVのCPTやTOPANGA関連の配信&動画を見ていたが、STREET FIGHTER Ⅲ 3rd Strike(以下「3rd」)をまともに見たのは初めてだった。
第一印象は「シンプルで展開が早い」、そしてすぐに「早すぎる」に変わる。
ストVと比べて、生身の人間が直接操作している感覚がより鮮明に伝わってきた。
そして、「ああ、こいつらスゲエわ……」という衝撃。
もちろんプレイ経験もなければシステムもろくに理解していない。
それでも伝わってきてしまう、熟練の駆け引きと正確なプレイの数々に心を揺さぶられずにはいられなかったのだ。
ただ、さすがに無知が過ぎても失礼だし楽しめるものも楽しめない。
最低限、本当に最低限として勉強した。
ブロッキング(BL)
上・中段攻撃を受ける瞬間に前方向に、下段攻撃を受ける瞬間は下方向にタイミング良くレバーを入れると攻撃を捌ける。
ゲージが溜まり、硬直も減るので先制攻撃が可能。
多段攻撃も連続してタイミング良くレバーを入れると連続ブロッキングも可能。
尚、自分が空中にいる場合も前方向にレバーを入れることによって空中ブロッキングが可能。
空中ではガードをすることが出来ないので、空中ブロッキングは唯一の空中での防御手段。
一度入力した後のブロ受付不可時間は23F。
(STREET FIGHTER III 3rd STRIKE Wikiより)
さらに上級者が用いる通称“赤ブロ”が「ガードブロッキング」。
ガードブロッキング(通称:赤ブロ)
ガード硬直中でもN>6と入力することでブロッキングが可能、連続ガードに割り込める。
青く光る通常のブロッキングと違い、赤く光ることから赤ブロと分けて呼ばれる。
通常技3F、必殺技とSAは2Fと受付時間が通常のブロッキングより極端に短いので難しい。
(STREET FIGHTER III 3rd STRIKE Wikiより)
このシステムにより格ゲーでよく言われる“キャラ差”や、圧倒的な体力差も覆すことも可能になるとのこと。
「3rdはシステムのゲーム」と言われる主要要素の一つらしい。
実際に試合を見ていくうちに、この「ブロッキング」を巧みに使い、時にブロッキングされることを前提としたような差し返す展開まで見せつけられ、ぐいぐいとプレイに魅了されていった。
あとはSA(スーパーアーツ)やEX必殺技で使用するゲージ運用、技を振るだけでゲージが溜まる3rd特有のシステム、一度始まったら即死級のコンボの数々など。
これらは参加している選手たち自らが担当する実況&解説で、その凄さを少しは理解することができた。
というか……20年の歴史を持つゲームの解説など彼らにしかできないし、もはや許されない。
それくらいの重さ、彼らが大切にしてきたモノが伝わってくる。
それでも「知らない人に3rdを伝える」という姿勢は常にあり、一見さんお断りの圧は抑えられていて助けられた感はあった。
ただし、そんな彼らを安易に扱ったり、後からタダ乗りするような姿勢を見せたりしたら、遠慮なく牙を剥くだろう。
(こうして書いている自分も、彼らへの敬意を忘れてはならないと、なかば恐怖すら感じている)
少し見る角度を変えよう。
プレクーペ・クーペはTwitchで配信されているが、チーム名&プレイヤー名表示・プレイヤー自身のワイプ表示など整いクォリティが高い。
3rdを知る人たちならばプレイを見るだけで十分に楽しめるだろうが、自分のようないわゆる「動画勢」にとってはプレイヤーの顔が見えること自体がありがたい。
格ゲーをプレイする者たちの修羅の表情。
渾身の読みとタイミングで技を入れる瞬間の上半身の律動。
技一つ一つに「アイイイ!」と叫ぶ仲間たち。
雄叫びを上げる勝者、両手で顔を覆う敗者。
何らはばかることなくチームの勝利を互いに抱き合って喜ぶ姿。
そこにいる彼らは……率直に言おう、いい歳したオッサン、どう見ても中年ばかりだ。
それはそうだ、20年前のゲームだぞ? 中高生で始めたとして40歳近くないとオカシイ。
そんな彼らがガチな姿を見せてくれることに、心が揺さぶられない方がもっとオカシイ。
そして。その彼ら一人一人の歩んできたゲーム歴や対戦相手との人間関係といった背景を知れば、さらにその振れ幅は広がる。
ニュートン大山、西日暮里バーサス、Gamer’s Vision(横浜、2010年11月閉店)、キングギドラ(ヌキ/力丸/MOV ※以下、プレイヤー名敬称略)、闘劇(2012年第10回開催まで)、ゲーメスト(1999年8月最終号)、アルカディア(2015年2月定期刊行終了)
ランダムに簡単なキーワードを挙げてもキリがない……自分なりにいろいろ調べたが、とても底が見えない沼。己の浅さを痛感させられた。
後から知った者が、その感動をリアルタイムに共有できなかったのは仕方がない。
この3rdの20年は、彼らが大切にしてきた宝物、人生そのものなのだから。
そんなことが頭をグルグルしながら配信を見続け、気付けば大会は進みプレクーペも終了。
ただただ、3rdというゲームと向かい合い続けた男たちの、感情の発露がそこにあった。
クーペ、その熱とは。
プレクーペ翌日。自分は15時ごろに会場に到着した。
タイミング的には1次予選リーグが終わり、2次予選、プレイオフと進む段階。
浅草橋駅を降りた時点で、周囲を徘徊する人々の質が違うのはすぐに感じられた。
どう見ても“ヤンチャな大人”の比率が高い。
彼らの後を追うだけで、自然と会場のヒューリックホールにたどり着くことができた。
ヒューリック浅草橋ビルは2013年に竣工されたらしく、まだ新しく清潔感がある。
その2階に近付くと「アイイイ!」という男たちの雄叫びが聞こえてきて、ここで間違いないと確信できた。
会場に入ると、おそらくまだ観覧スペースに余裕のある状態だった。
だが、それでも配信台やそれ以外のブラストシティ筐体の周りには何重もの人だかりで溢れていた。
会場を一周してゲーム大会らしくスポンサーの一つであるレッドブルも確保、一息つきたくて喫煙所に向かった。
2階のこじんまりとした喫煙所は混雑していたが、その分そこにいる参加者たちの会話が必然的に聞こえてくる。
「あれ確認してんの? 状況だろ!?」「いや、あれ確認してるよ。ただ上は完全に捨ててた」「あそこ潰れたの知ってる?」「ああ店員の〇〇が××に移ったとか」
そんな言葉が飛び交う空間は、自分がそこにいることが申し訳ないと思いつつも、なぜか胸に広がる高揚感が心地よかった。そこにはチームユニフォームを着たヴァナヲの姿も。リラックスしつつも眼光の鋭さが隠しきれてない印象だった。
まだ観客が少ない状態もあり、配信台の近くで試合を見ることができた。
チーム「死」vs「DREAM」、DREAM先鋒の弟子犬が5タテする圧巻劇を目撃。
弟子犬のあのマスクを着けたまま力強くレバーを操る姿、その腕の筋肉の震えが今でも忘れられない。
大会が進むに連れて、その熱に吸い寄せられたかのように入場者は増えていく。
気付けばホール内のほぼ全てが、スクリーンを見つめて床に座る観客で敷き詰められていった。
誰に言われたのでも決められたのでもなく、ごく自然に床に座り笑顔と驚嘆の表情で試合を見つめる。これも一つの格ゲー文化なのだろう、そこにいること自体が気持ちいい。
決勝トーナメントまで進むと、会場は一旦整理されて椅子が設置される。
その中で、一緒に来てくれた古くから格ゲーを知る友人がスクリーンが見やすく周りに空席もあるゾーンを確保してくれた。
すると、決勝トーナメントに進出したチーム「神奈川」のメンバーが、入場&選手紹介を終えて自分たちの直近に腰を下ろした。(友人曰く、この展開は「知ってた」らしい)
特にキングギドラと呼ばれる3人のうちの一人、力丸の大きい声が自分にも聞こえてきて無条件にワクワクしてきた。もはや、ただのファンボーイ。いいじゃないか、それで。
だが、そんなチーム「神奈川」も、準決勝で「DREAM」に敗退。
それはオオヌキとのギドラ対決。互いにゲージMAX、しゃがみ中足のヒット確認でSA鳳翼扇が決まるという緊迫した戦いの上で敗れた力丸が席に戻ってきた。
彼は周りに聞こえることもはばかることなく口を開いた。
「あいつ強すぎんだよ!」と悪態に近いような叫びを。
でも、それは悪態ではないのだろう。
格ゲーマー同士だからこそ交わされる煽りと、そこに込められたリスペクト。
それを生で聞けたことがむしろ嬉しかった。
そして決勝
「西日暮里バーサス(西)」対「DREAM(D)」。
試合は凄まじいプレイの連続だった。
これまで連勝を重ね絶好調のトミナガ・まこと(西)。
それを先鋒で倒してみせるけんぞー・ヤン(D)。
この日初試合ながら実力を見せ、けんぞー(D)、いっせー・ユン(D)、ハイタニ・まこと(D)を破るギドラの一角、MOV・春麗(西)。
そしてDREAMに残されたのは弟子犬とオオヌキの二人となる。
そして西日暮里バーサスのMOVの前に立ち塞がったのは……オオヌキ・春麗(D)。
弟子犬がオオヌキに譲ったのか、弟子犬自らが大将で戦いたかったのかは定かではないが、力丸vsオオヌキに続くギドラ対決となった。
そして、その戦いはオオヌキの完璧に近いプレイが光る。
1ラウンドを取り、2ラウンド目に溜めた2本のゲージをきっちり鳳翼扇のダメージに代えてMOVを葬り去った。
その勢いのまま、立ち回りとブロッキングが鋭いかし・ケン(西)もストレートで破るオオヌキ。
ここまで明らかに仕上がってきているオオヌキ。
特にこれまでのオオヌキのプレイで特出すべきは、歴戦のプレイヤーたちを必ずと言っていいほど劣勢に追い込むユンの幻影陣を、的確にいなしてむしろ反撃してみせる姿だった。
このオオヌキを倒せる奴がいるのか。
そんな空気の中で、西日暮里バーサスから出陣したのは副将のマッチ・豪鬼(西)。
彼は「いい歳した大人ですけど、思いっきりはしゃいで相手を倒します!」と決勝前のインタビューで語ってみせていた。
そしてこの男……
有言実行。
オオヌキを見事に破りDREAMの大将、弟子犬・ケン(D)を引きずり出してみせる。
マッチが弾けてみせるのに対し、弟子犬はストイックを象徴するかのごとく静かに集中して画面を見つめ、そして目を閉じる。
そして試合は、難しいとされる昇竜拳ダブルも決めて見せた弟子犬が圧倒してみせた。
先鋒が相手を5タテして終わることが珍しくない5on5形式のチーム対抗戦。
そしてこの壇上に立つ誰もが5タテをしてもおかしくない実力者たちばかり。
その決勝の最終戦が、後のない大将戦となったのだ。
Fight for the Future.―2019年1月、第17回クーペレーションカップ決勝・大将戦にて pic.twitter.com/zM04ijzZjk
— 大須晶/ohsuakira (@ohsuAK) January 8, 2019
格闘ゲーム専門のフォトグラファー、大須晶氏のtwitterより。
ストリートファイターを象徴するリュウとケン。
3rdで新たに用意された、リュウvsケン時の拳を合わせる専用デモ。
筐体を挟んで対峙するプレイヤーと、その向こうに移るキャラクターの構図。
この瞬間を成立させたクーペという舞台と、それを支えてきた人々。
そして、この瞬間を現場で予期し、確実にファインダーに収めた大須氏。
今見てもこの写真を見ると鳥肌が立つ。
平面に見えるものだけでなく、その背後に込められた数々の僥倖に。
最後の戦いは西日暮里の大将、ヴァナヲ・リュウ(西)に熱い声援が寄せられる。
※上記誤ってヴァナヲさんの使用キャラをケンとしていました(見れば明らかなのに……)。twitterでご指摘いただき、2019/1/17に修正しました。お教えいただいた方々ありがとうございます。
それは、弟子犬有利という空気、この戦いの重さを全身に背負い鬼気迫る表情のヴァナヲを見てのことだ。
たしかに自分が喫煙所で見た時の表情とは明らかに違うヴァナヲ。
それは死を覚悟して戦場に赴く兵士のごとき姿だった。
そして。
弟子犬が勝ち、ヴァナヲは負けた。
今この時、強い者が勝ち、弱い者が負けた。
たとえどんなに美化しようと格ゲーは戦いであり、その結果には勝者と敗者が存在する。
それはあまりに残酷で、それゆえに公平だ。
ただし、救いはある。
それは、次があるということ。
諦めなければ、己が培ってきた闘いの日々を捨てずに研鑽を続ければ、再戦の機会がある。
その為にクーペがある。
主催の松田氏を始め、多くのプレイヤーや関係者がクーペという場を保ち続けているのは、その為と言ってもいいだろう。
クーペは3rdという宝物に魅きつけられてきた男たちの“故郷”なのだ。
何ら関わりも無ければ貢献もしていない自分が言うのは無礼極まりないかもしれないが、そう感じた決勝だった。
長くなったが、そろそろ〆。
今大会のメインビジュアル。
吉原基貴先生の描いたアレックスが素晴らしかったので大会パンフレットより。
自分のような動画勢に“にわか”が付くような者が、クーペや3rdを語ることに恐縮しつつ、配信シーンや写真等を引用させていただいたことをお許しいただければ幸いです。
(繰り返しますが選手名は敬称略。また、文章内容を含め問題がありましたら、訂正・削除などさせていただきます)
何でこんな熱い場を知らなかったのだろう。
興奮と後悔が入り混じった結果、こうしてクーペを記事として収めなければ気が済まなかった。
そして今回、共に会場に来てくれた友人が教えてくれた「狼は生きろ、豚は死ね」という3rdプレイヤーたちの生の声が記されたブログも拝見した。あまりに熱くて激しくて、迂闊に触ろうものならば火傷する。こうして記事を書くに際しても、彼らへの敬意ゆえに筆が重くなったのも確かだ。
その上で願わくば、この記事が3rdとクーペを愛し支え続ける方たちに届かんことを。
クーペ本戦決勝結果
準優勝:西日暮里バーサス
GRPT|MOV(春麗)/WP|ヴァナヲ(リュウ)/マッチ(豪鬼)
かし(ケン)/トミナガ(まこと)
優勝:DREAM
けんぞー(ヤン)/ハイタニ(まこと)/いっせー(ユン)
弟子犬KFG(ケン)/オオヌキ(春麗)
映像
STREET FIGHTER III 3rd STRIKE 5on5【17th COOPERATION CUP】 JST 10:00
STREET FIGHTER III 3rd STRIKE ONE CHARACTER RECOMMENDED ONLY 5on5【PRE COOPERATION CUP】 JST 10:00
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